東京地方裁判所 昭和28年(モ)15749号 判決
債権者 徐有根 外二名
債務者 株式会社東洋
一、主 文
債権者等と債務者との間の当庁昭和二十八年(ヨ)第八七四四号不動産仮処分申請事件につき、当裁判所が昭和二十八年十一月十六日なした仮処分決定はこれを認可する。
訴訟費用は債務者の負担とする。
二、事 実
第一、債務者等の主張
一、申請の趣旨
主文第一項同旨の判決を求める。
二、申請の理由
(一) 別紙<省略>目録記載の建物(以下本件建物という)及びその西裏に接して存する木造トタン葺平家建一棟建坪十七坪七合(登記簿上建坪十四坪)は訴外増田敏夫の所有するところで、更にその西裏に接して木造トタン葺平家建店舗一棟建坪十四坪中二階九坪五合(訴外永代商工信用組合所有)が存在しているが、以上三棟は事実上一つの共通した屋根を有し一つの棟を形成し、三者の間には板仕切があるに過ぎない。右訴外増田所有の建物二棟は、訴外永代商工信用組合申立に係る東京地方裁判所昭和二十四年(ヌ)第五六号強制管理手続中で、債権者徐有根は右平家建々物を、債権者周梅璋、同風間辰治は本件建物階下のそれぞれ一部を、右管理事件の管理人山内伴治より賃借し、それぞれこれを飲食店営業等に占有使用している。その各々の占有部分は、別紙図面表示の通り、債権者周において本件建物階下の店舗五坪三合八勺、債権者風間において同七合、債権者等三名において同階下中央幅員二間奥行五間(通路であつて、その西端は昭和二十四年夏以来幅約四尺の出入口により、前記訴外増田所有の平家建々物に通じている)であり、更に、債権者周は右営業のため、本件建物の正面屋上及び二階向つて左横側に看板を設置してこれを占有している。
(二) 債務者は昭和二十五年四月十二日訴外鹿島利右ヱ門から右建物三棟の敷地六十九坪一合三勺を譲受けその土地の賃借人訴外株式会社第一製作所(代表取締役増田敏夫)に対し賃料不払を理由として右敷地の賃貸借を解除し、債権者等に対し建物退去土地明渡を訴求し、東京地方裁判所昭和二十五年(ワ)第四三四四号事件で債務者勝訴の判決が言渡され、債権者等は東京高等裁判所に控訴し昭和二十七年(ネ)第五〇一号事件として繋属中である。なお、債務者よりの申請で債権者及びその他の占有者蔡昭星、蔡火欽、株式会社吉川商事に対し本件建物等の占有移転禁止仮処分が執行されている。
(三) 昭和二十八年九月債務者と右蔡昭星、蔡火欽、株式会社吉川商事(本件建物二階占有)との間に、後者がそれぞれの占有部分より退去する旨の和解が成立し、同年十一月十一日退去完了するや翌十二日債務者会社代表者北村親吉等は執行吏とともに本件建物に臨み、蔡昭星外二名に対し右仮処分を解放したがその際居合せた債権者風間に対し右北村等は本件建物の二階と階下のうち右蔡等の占有していた部分を取毀すべき旨公言した。これは債権者等の前記看板、通路、占有部分に対する占有を実力をもつて侵害するにいたるもので、このまま放置しては回復し難い損害を蒙るおそれがあるから、これが保全のため仮処分の申請をなし、主文第一項掲記の「一、債務者は、別紙目録並びに図面表示の建物の部分に対する債権者周梅璋、同風間辰治の各占有を妨害してはならない。二、債務者は債権者徐有根が右建物の正面屋上及び二階向つて左横側に設置してある看板を取外し又は取毀して、債権者徐有根の右看板に対する占有を妨害してはならない。三、債務者は、第一項記載の建物階下の中央幅員二間奥行五間の部分に対する債権者等の通路としての占有を妨害してはならない。」との仮処分決定を得た。この決定は至当であつて、なお維持の必要があるので、その認可の判決を求める。
第二、債務者の主張
一、主文第一項掲記の仮処分決定の取消並びに申請却下の判決を求める。
二、債権者等が、その主張のような仮処分決定を得たことは認めるが、債権者等が本件建物につきその主張のような看板、通路、店舗部分をそれぞれ占有しているとの事実はこれを否認する。もつとも、債務者は、昭和二十九年二月十八日の本件口頭弁論期日において、債権者周梅璋、同風間辰治の右通路及び店舗部分に対する各占有事実を認めたが、その自白は真実に反し、かつ錯誤に基づくものであるからこれを取消す。その実情は次の通りである。すなわち、債権者周及び同風間については、本件店舗のうちその使用にかかる部分につき、後に述べる如く、債務者より占有移転禁止、現状不変更を条件にその使用を許す旨の仮処分の執行がなされたところ、債権者周はその占有部分を第三者である森芳男に勝手に使用せしめて現状を変更したので、昭和二十八年八月二十八日の点検により、また債権者風間も同年十一月中第三者にその占有を移し現状を変更したので、同様点検により、それぞれその占有部分の使用を禁止され、執行吏の保管するところとなり現在に及んでいるのである。
ところで、別紙目録記載の本件建物は訴外増田敏夫の所有であつていずれ収去せらるべき関係にあるのに、債権者周、同風間の外、訴外蔡昭星、蔡火欽、鈴木竹治、吉川商事株式会社が、その店舗の一部を正当な権原なく占有しその占有を移転するおそれがあるので、同建物敷地の所有者たる合資会社日本橋東洋(昭和二十六年七月二十日債務者会社に吸収合併され、その権利義務一切が包括承認された。)は、昭和二十五年六月十六日東京地方裁判所(ヨ)第一九〇三号をもつて、債権者周同風間等に対し、本件建物階下店舗部分につき、占有移転禁止現状不変更を条件に同人等にその使用を許す旨の仮処分決定を得、同月十九日頃これを執行した。当時本件建物階下の各占有者等はいずれもケースを使用し、いわゆるケース売り物品販売業者であつて、同店舗内中央の通路をその営業のために使用していたが、一方、本件建物とその西裏に接する債権者等主張の建物は板張りをもつて区劃せられ、本件建物に出入出来ない状態になつていたが、昭和二十五年暮か昭和二十六年初頃、債権者風間がその占有場所に設置のケースを取除き右板張りの区劃を取毀して西裏の建物から本件店舗内に出入しうる様に勝手に改造し、債権者等主張のような通路を設けるにいたつた。その結果による本件店舗部分についての債権者風間の占有並びに同徐有根の出入口、通路の占有は、前記昭和二十五年(ヨ)第一九〇三号仮処分決定に違背するものであり、従つてこれを是認することになる本件仮処分決定は右決定に牴触し許されない。また、本件建物の西裏に接する徐有根の占有にかかる建物への出入には、本件建物の南側に幅約五尺、長さ十四、五間の完全な通路が当初からあつてこれを使用しているのであり、本件店舗内の前記通路はその出入路ではないから、この点につき本件仮処分の必要がない。
第三、債権者等の答弁
自白の取消には異議がある。
なお、債務者主張のような仮処分とその執行があつたこと、その主張のような吸収合併のなされたこと、債権者周の本件建物に対する占有が解かれ執行吏の保管に移されていることはこれを認める。
第四、疏明
<省略>
三、理 由
一、債権者周梅璋、同風間辰治がその主張にかかる別紙目録記載の本件建物階下の各店舗部分及び通路をそれぞれ占有していることは当事者間に争がない。もつとも、債務者は昭和二十九年二月十八日の本件口頭弁論期日において、この事実を認め、その後同年五月二十四日の本件口頭弁論期日において、右自白は真実に反しかつ錯誤に基くものであることを理由にこれを取消したけれども、本件に顕われた疏明によつては、いまだ右自白が、少くとも、真実に反したものであることを認めるに足りないので、その自白の取消はこれを許すことができない。債務者は、右店舗部分が債務者より右債権者両名に対する占有移転禁止、現状不変更を条件に同債権者等に使用を許す旨の仮処分決定(合資会社日本橋東洋の申請にかかるものであるが、同会社は昭和二十六年七月二十日債務者会社に吸収合併せられ、その権利義務一切が包括承継されたこのことは当事者間に争がない。)の執行として、一時債権者等に使用を許されたが、その後執行吏の点検により現状を変更したものとして、その使用が禁止され執行吏の保管するところとなり右債権者両名は本件店舗部分につき何等占有を有しないと主張するが、右仮処分の執行による執行吏の占有は、公法上の占有であつて、私法上の占有ではなく、従つて本件店舗に対する私法上の占有は依然債権者等に存するものと解すべきであるから、債務者主張の如く、本件店舗が執行吏の占有にかかり、債権者等の使用が許されていないとしても、債権者等がその私法上の占有権の効果を主張するに妨げなきものというべきである。もつとも、右占有移転禁止仮処分執行当時の本件店舗部分に対する債権者周及び風間の占有については、訴外永代商工信用組合申立、同増田敏夫に対する強制管理事件につき、その管理人山内伴治より右債権者両名が賃借占有に係るものであることは、当事者間の明かに争わないところであるが、強制管理にあつては、国家が債務者の収益権能を徴収するが、執行機関たる裁判所が自らこれを行使せず、管理人を任命してこれに当らせるもので、この管理人は国家から実体上の管理収益権を授権委託されるのであるが、国家の執行権能を行使する者ではないから、執行機関ではなく、また、管理人と授権者である執行裁判所との任命監督の関係は執行法上の関係であるが、債務者、収益の給付をなすべき第三者に対する関係は、自己の名をもつて債務者の財産に対し管理収益権を行うに止まり、その個々の行為は執行行為ではなく専ら私法上の行為と認められるから、これにより前示判断は左右されないものと考える。また本件店舗中央の通路が、同店舗において営業するもののため必要であり、その共同使用にかかることは債務者の自認するところであり、債権者周、同風間が本件店舗部分の占有者で、少くとも昭和二十五年七月頃以来同所においてケースを使用し、いわゆるケース売り物品販売業をなし、右通路を店舗の一部ないしその延長として共同占有して来たことは、以上争なき事実と成立に争のない甲第二号証及び債権者風間辰治本人訊問の結果により十分うかがうことができるから、右債権者両名に通路の占有ありとする自白は、これが真実に反するものとして取消すに由ないこというまでもない。
二、次に債権者徐有根の本件店舗中央の通路の占有については、債権者風間辰治本人訊問の結果(再度)及び同訊問の結果により真正な成立の認められる乙第六乃至九号証、甲第四号証の一乃至五(いずれも本件現場の写真なることは当事者間に争なく、撮影月日については右訊問の結果により債権者等主張の通りであることが認められる)を綜合すれば、本件通路は債権者徐有根が昭和二十四年頃から本件建物の西裏に接して存する建物で営む飲食店の客などの通路として使用し、その建物と本件建物との間には簡易な仕切がなされその中央に幅約四尺の出入口を設けて本件通路に通じていたこと、その通路の奥、右出入口の上部には小さな差出し屋根を設けかつそこに右飲食店の屋号更科の表示をなし右通路よりの客の誘致をなしていたこと、その通路の上の天井の補修や、通路の表街路への出口の雨戸の取替、レールの修理(以上昭和二十七年十二月頃実施)同出口の日除張替等(昭和二十八年九月頃実施)については債権者徐が、本件店舗部分のケース使用者である債権者周あるいは訴外蔡等と共同でこれを実施し、本件通路の管理修理等に当つて来たこと、が一応認められるから、債権者徐において本件通路を占有するものとなすに何等妨げがない。また、本件建物の正面屋上及び二階向つて左横側に存する本件看板についても、前示各疏明を綜合すれば、債権者徐が本件建物の西裏の建物で営む前示飲食店更科の営業のため、昭和二十五年当時より本件建物につき管理権ある者の承諾を得てこれを設置し、以来これを占有していることが認められる。
なお、債務者は、債権者風間が債務者主張の仮処分決定に違背して変更するにいたつた事態を、その後に出された本件仮処分決定において是認する結果になるから、両決定は牴触し後者は許されないと主張するが、そのいわゆる債権者風間の違背事実のにわかに認め難いことは、すでに前示認定事実により明かであるのみならず、両決定自体はその内容において何等牴触するものではないし、また、本件異議にかかる仮処分決定は債務者において、実力をもつて、債権者等の占有を妨害することを禁ずる趣旨のもので先の仮処分にもとずく点検その他法律上の手続によつて事態の回復等をなすことを禁止するものではないから、債務者のこの点の主張は理由がない。
三、以上の通りであるから本件看板、通路及び店舗部分に対する債権者等の占有権についてはその疏明あるものというをうべく、この占有に対する妨害のおそれ、ないし保全の必要性については、債権者風間本人訊問の結果(第一回)と弁論の全趣旨に徴し一応これを認めうるのみならず、債権者等においてすでに保証を立てているので、結局右占有権に対する債務者の妨害を予防せんことを前提とする債権者等の本件仮処分申請はその理由があるから正当として認容すべきものである。(なお本件建物の南側に接し債務者主張のような相当な通路の存することも前示認定を左右するに足りないこというまでもない。)しからば右と同趣旨に出た主文第一項掲記の仮処分決定はこれを認可すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 荒木秀一)